日々の色

バント職人

time 2016/10/25

バント職人

何か一つを極めると活躍のチャンスが生まれる。

私の学生時代は、スラムダンクが流行ったこともあり
野球、サッカー、バスケットが3大人気運動部だった。

野球も一学年で20名以上いたため、レギュラーになるのは難しい。
いや、試合に出るのも難しいという状況だった。
野球経験者ならご存知だと思うが、公式戦ではベンチ入り出来るまで
しか背番号がない。背番号がない=公式戦に出場することは不可能となる。

私は、もちろん背番号などもらえなかった。

外野のさらに後ろでボールを拾ったり、好きだった子のいた
ソフトボール部の練習に視線を奪われたりとそんな日々だった。

仲の良かった友達に辛うじて、背番号をもらえた奴がいた。
よく一緒に練習していたものだから、友達が頑張り屋なことは誰より知っている。
なので、ベンチ入りできたことを純粋に私は喜んだ。
彼は身体が小さく、肩が強いわけでも、バッティングセンスが良いわけでも、
足が速いわけでもなかった。

そんな彼が、ベンチ入り出来た理由は、たった一つを極めたからだ。

当時うちの学校の監督はノーヒットでも1点というのを掲げていた。
フォワボールで出塁、盗塁で二塁へ進塁、その後、送りバントで三塁へ進塁。
最後はスクイズで、1点。というものだった。

1年からうまい生徒は活躍する。
熾烈なポジション争い。チームの中で自分にチャンスをもらう為にどうすればいいか。
彼の出した答えは、送りバントを極める事だった。

自分が目立ちたいという選手はバントが格好悪いと思っていたりする。
しかし、彼は何より野球をすること自体がとても好きでチームの勝利に拘りを持っていたのだった。

一緒にバッテイングセンターに行った時の事。

彼は、140キロのボックスで、ひたすらバントを繰り返していた。
バッテイングをしに来ている他校の生徒、彼女を連れて
いいところを見せようとカッコつけている男の人は
不思議そうな目でみたり、笑ったり。
正直、私も一緒に行っている身として恥ずかしかった。

それでも彼は、バントを続けた。

時には、高めに、時には低めにマシンを設定して。
そのうち、チームの紅白戦で彼はその成果を発揮する。

もちろん俊足ではないので、セーフティーバントは出来ない。
だが、ランナーがいれば確実にバントを決め、時にはエラーを誘い塁に出ることもあった。

そして彼はその安定したバントスキルを買われ
背番号を手にすることが出来たのだった。

実際公式戦で、レギュラーでなかった彼の出番は多くなかった。
しかし、犠打が必要な場面の代打ではほぼ確実にバントを成功させた。

ランナーを進めて一塁から戻ってくる、彼の姿はとても満足気で
輝いていたのだった。

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